こぼれ話
>変化の原因、その理由
「え、何で手塚先輩なのかって? 何でってそりゃあ……あ、あの髪型かな。だってあんなに真面目できっちりしている人が、髪型だけピンピン跳ねた無造作ヘアなんだよ? もうその意外性だけでほれちゃうって言うか、いやんもう恥ずかしい!」
その発想が恥ずかしいよ。
後日。
「あれ、どうしたのリョーマ。寝癖ひどいよ? 水でもつけて直しておきなよー」
「……ふぅ」
読んでる雑誌から目も離さない彼女を見て、リョーマはため息と共に髪を撫で下ろした。
>意識まであと何秒?
「海道せんぱ〜い。おっはよーございまーす」
ぶんぶん手を振るに、「よう」と一言返して去る海道。
「いつの間に知り合ったの?」
「空腹のあまり倒れてたらおにぎり恵んでもらったー」
……餌付けされたか。
おいしかったよーと顔を緩めるに何かすごくむかついて。
バックで軽く小突いたら、「痛! ちょっとリョーマ何様のつもり!」と蹴り返された。
>彼女の本質
「何でコートで見ないの?」
「人多すぎてゆっくり鑑賞できないじゃん。ちょっと遠いけど教室から見た方が全体をよく見れるしさー」
顔も見たいけどプレイが見たいんだ、と笑う彼女は。
これで案外テニス好きだと思う。
>素直じゃない幼馴染
おばさんにもらったりんごをもそもそ食べていたらリョーマが帰ってきた。
「よっ、おかえりリョーマ」
「ん」
どさっとテニスバックを置いて斜め隣に座る。部屋においてくればいいのに、と思いつつ、りんごの盛られたガラスの器に視線を戻すと――。
「あ、こら、これは私の分だって!」
「いいじゃん、別に」
ひょいっと手が伸びてきた。あ、と思う間もなく、最後の一切れを掻っ攫われる。恨めしげに睨み付けてもそ知らぬ顔だ。相変わらず憎たらしい幼馴染である。
「何それ。サイズ表?」
むっと唇を突き出して名残おしく器をつついていたら、テーブルの上に白い紙切れが載ってきた。がさごそリョーマが取り出したプリントを覗き込むと「青春学園レギュラージャージ申込書」と書かれた文字が見える。すでに氏名の欄に名前があった。書かれた名前は――越前リョーマ。
「あ、今日だったね、ランキング戦。レギュラー入りできたのかー」
「当然」
なんでもない顔してるリョーマ。でもね、無関心装ってても今すごいワクワクしてるってのは、長い付き合いだから分かるんだよ。
「おめでと」
「ん」
めったに言わない祝いの言葉を投げかけると、珍しくちょっと嬉しそうに、リョーマはこくりとうなづいた。
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