青春10題 番外

  こぼれ話  


>変化の原因、その理由

「え、何で手塚先輩なのかって? 何でってそりゃあ……あ、あの髪型かな。だってあんなに真面目できっちりしている人が、髪型だけピンピン跳ねた無造作ヘアなんだよ? もうその意外性だけでほれちゃうって言うか、いやんもう恥ずかしい!」

 その発想が恥ずかしいよ。

 後日。

「あれ、どうしたのリョーマ。寝癖ひどいよ? 水でもつけて直しておきなよー」
「……ふぅ」

 読んでる雑誌から目も離さない彼女を見て、リョーマはため息と共に髪を撫で下ろした。




>意識まであと何秒?

「海道せんぱ〜い。おっはよーございまーす」

 ぶんぶん手を振るに、「よう」と一言返して去る海道。

「いつの間に知り合ったの?」
「空腹のあまり倒れてたらおにぎり恵んでもらったー」

 ……餌付けされたか。
 おいしかったよーと顔を緩めるに何かすごくむかついて。
 バックで軽く小突いたら、「痛! ちょっとリョーマ何様のつもり!」と蹴り返された。




>彼女の本質

「何でコートで見ないの?」
「人多すぎてゆっくり鑑賞できないじゃん。ちょっと遠いけど教室から見た方が全体をよく見れるしさー」

 顔も見たいけどプレイが見たいんだ、と笑う彼女は。
 これで案外テニス好きだと思う。




>素直じゃない幼馴染

 おばさんにもらったりんごをもそもそ食べていたらリョーマが帰ってきた。

「よっ、おかえりリョーマ」
「ん」

 どさっとテニスバックを置いて斜め隣に座る。部屋においてくればいいのに、と思いつつ、りんごの盛られたガラスの器に視線を戻すと――。

「あ、こら、これは私の分だって!」
「いいじゃん、別に」

 ひょいっと手が伸びてきた。あ、と思う間もなく、最後の一切れを掻っ攫われる。恨めしげに睨み付けてもそ知らぬ顔だ。相変わらず憎たらしい幼馴染である。

「何それ。サイズ表?」

 むっと唇を突き出して名残おしく器をつついていたら、テーブルの上に白い紙切れが載ってきた。がさごそリョーマが取り出したプリントを覗き込むと「青春学園レギュラージャージ申込書」と書かれた文字が見える。すでに氏名の欄に名前があった。書かれた名前は――越前リョーマ。

「あ、今日だったね、ランキング戦。レギュラー入りできたのかー」
「当然」

 なんでもない顔してるリョーマ。でもね、無関心装ってても今すごいワクワクしてるってのは、長い付き合いだから分かるんだよ。

「おめでと」
「ん」

 めったに言わない祝いの言葉を投げかけると、珍しくちょっと嬉しそうに、リョーマはこくりとうなづいた。


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