アスタリスク
-12-
なんてしっかり注意を受けてたのに……はぐれました。軽く泣きたい。
人気の無い道を選びながら、はびくびくしながら歩いていた。
途中までは付いて行けてたんだ! ただ入った先で、ばったり巡回中の地球軍兵とかち合ってしまって。
向こうさんも爆発物を持ち出して、その爆風に煽られてクラクラ意識が朦朧としている内に、人がいなさそうなところを選んで逃げ回っていたらいつの間にか一人で歩いていただけで。
「あ」
ゴウン、と遠くで何か爆発した音がした。
思わず辺りを見回すが、窓も何もないこの空間では状況を確認するすべも無い。すくめていた首を戻して、ため息を一つ。
「せめて、これが使えたらなぁ……」
懐から探り出した機械を見て、はしょんぼり眉を寄せた。
突入直前にミゲルから渡された通信機だ。無骨な作りで結構な重さ。後生大事に持ってきたけれど、正直ただのお荷物になっている。
何度スイッチを押しても反応が無いのだ。たぶん、最初の爆発で落とした時に壊れたんだろう。何たる不運。本当、疫病神にでも憑かれてるんじゃないかと肩の辺りをうかがってしまう。
使えないと分かっていても捨てずに持ってきたのは単なる未練だった。もしかしたら、何て、今でも思っているのだ。本当に未練たらしい。
非力な自分にできることなんて、逃げる以外無い。と言うか、逃げる方向すら分からない。
数少ない可能性の一つとして期待してしまっても、無理のないことだと思う。
束の間の思考を自己完結し、ため息と共にその通信機は懐に戻した。そして、手持ちのものは、それ以外にもう一つ。
「……」
それを見ると、苦い思いがこみ上げてくる。黒光りするそれは、いわゆる銃と言うもので。
逃げる途中で拾ったものだ。使えないと分かっているのに、なぜか持ってきてしまった。これも未練だろう。
生きることへの執着と言ってもいいかもしれない。わずかな可能性の芽を、本能だけでつまんできてしまった。
「――おわ!?」
また爆発音がした。今度はもっと近くだ。軽い衝撃が来て、思わず膝をつく。
少しして、ばたばたと人の足音が響いた。これでうまいことザフトの皆さんと合流できればいいんだろうだが、ここが地球軍の研究施設だということを考えると、その可能性はとてつもなく低い。
逃げる場所を求めては辺りを見回した。音が反響してどちらから聞こえてくるのか、方向が特定できない。
進むべきか、戻るべきか?
壁に背を当てて、左右に目を配る。
抜けそうになる腰を叱咤して、背を伸ばす。壁伝いに動こうとして、何かのパネルに手が触れた。はっと手元を見る。
ブレスレットと同じ青い光が幾度か点滅し。
そして、一体なんだと言うのだろうか。音もなく、扉が――開いた?
嘘、なんで!?
「――どわぁ!?」
背後の支えをなくし、は背中から床に激突した。同時に扉が閉まる。
とっさに出た苦痛の声を、手のひらで抑えて身を起こす。首をすくめて耳を澄ます。
――何も聞こえない。
ほっとして、は息をついた。どっと疲れた。
沈みそうになる体を、なんとか地面につけた膝と両の手のひらで支える。
指先が震えているのは仕方がない。緊張の連続で、頭がおかしくなりそうだった。
だからと言っても、言い訳にしかならないかもしれないけれど。
「……だれ、ですか?」
分かっていても、構えずにはいられなかった。
疲れと不安とでささくれた神経に、その物音はひどく大きく響いて。
震える銃口の向こうに、人影が見えた。
その人物はゆっくりと身を起こし、静かな瞳でを見据える。
「ああ、やっと、ですか」
「……?」
「どうぞ、やるならご自由に。ようやく楽になれて嬉しいくらいですから」
そう言って、鎖につながれたその少年は、紫紺の瞳を細めてうっすらと微笑んだ。