ソラ駆ける虹

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「じゃあアンタは、僕のために死んでくれるって言うのかい?」


 細すぎるほど華奢(きゃしゃ)な指にのどを押さえられながら、はぼんやりとシンクを見上げた。
 知っている、とは言えない。それでも、決して浅いつきあいでは無かったはずの彼と同じ緑の髪が、その心の衝撃を表すように激しく揺れる。
 視線をずらすと、影を落としても白さを失わない顔。
 そして激情をあらわにした苛烈(かれつ)な瞳と、合った。

「……何がおかしい」

 知らずゆがんだ口の端を見咎められたのだろう。
 不快に眉を寄せ、彼は言う。その瞳の奥底を見て思った。

 ああ、やはり、違う。彼じゃない。君は……。

「君だな、と思って、――ッ!」
「ふざけてるの?」

 冷えたまなざしが刃のように降り注ぐ。
 同時に、のどにかかる圧迫が増えた。声帯ごと握りつぶすかのような力の入り様に、彼の本気が分かった。
 ……いや、最初から分かっていた。初めて彼の瞳を見返したときから、私は知っていた。憎まれていることを。
 ――今はいなくなった彼の代わりのように。


「死ね、ないよ」

 ぽつりとこぼれたつぶやきは、つぶされた喉から出たにしてはやけに綺麗に響いた。

「私は、死ねない。最後まで……己のためにしか生きれないから」

 ぐらり、と視界が揺れた。
 限界が近いのだろう。つぶされた喉はヒューヒューと鳴って、ちゃんとしゃべれているのかすら分からない。
 けれど。

「何も無いなんてこと、ない」

 ちかちかと揺れる天井の明かりが目をかすめる。世界が奪われて行くことで、余計に今あるこの『現実』が実感できる。
 力を無くしていく自分の体。喉笛に当てられた彼の手。
 視界をかすめる灯り。不意によぎった、すがるような悲しい瞳。

 みんな、生きている。

「命あるものはみんなそうだ。私も、君も」

 ぐっと喉の圧迫が増した。もう光も無い。けれど、手のひらから伝わる熱だけは、確かだ。生きている。彼、だけの――。

「きっと」

 吐息のようにささやいて。



 私は意識を失った。

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