アスタリスク
-11-
「――で? 何でまたここにいるんだ、」
「いや、不幸な事故の重なり合いと言いましょうか……」
眉間をひくつかせながら言うミゲルに、は上目遣いで答えた。
――ダメ? ……あ、ダメっすか。はいはいすいませんね。可愛いこぶっても元がこれなんで綺麗どころを見慣れたあなた様には全く全然通用しないってことですね。分かってたけどさ!
だってしょうがないじゃないか。寒さ対策に羽織った上着が本物のの物で、それが情報部の制服だったりして。
ついでに実務官の記章なんかもついちゃってたんだからそりゃーもう迎えに来た人も間違えるよ。
ダメ押しに「ミゲル・アイマンが待ってる」なんて言われたら、『え、本当? 何の用だろう?』って付いて行っちゃうのも本当、仕方がない話だと思うんだ。
さすがに輸送艦に押し込められて、武装した兵士に先導された時には『やっべーなんか間違えた?』とか思ったけどさ。
あ、ミゲルが頭抱えた。
「前から思ってたんだけどさ、ってもしかして運悪い?」
苦笑いでこっちを見ているのは赤毛頭のラスティだ。
さすがに状況を考えてか、普段の茶化すような笑いはなりを潜めている。
まあ、無理も無い。ここ敵地。今作戦行動中なんだし。
「こっちに来るまではそれほどでも無かったはずなんだけど」
「こっち?」
「いや、こちらの話」
うっかり口を滑らすところだった。あぶないあぶない。
はぐるりと視線をそらした。
そんなことより目の前の扉だ。コンピューター制御の隔壁。
潜入調査プラスあわよくば救出作戦という性質上、爆破して突破はできるだけ避けたい。今倒した地球軍兵の交代要員が来るまでと言うタイムリミット付き。
スリル満点過ぎて泣きたくなる。
「――仕方ない。ここは一端……」
「いや、まだ時間はある。無理かもしれないが試してみる価値は――」
ミゲルとラスティは顔をつつき合わせて相談に入った。
他の兵士さんたちは周囲の警戒に当たっている。あといくつかの小隊がこちらの合図を待っているらしいのだが、ここを突破しない限り先には進めないらしい。
――ラクス嬢救出。
囚われ人がいるという情報が入った。けれど、どこにいるか、どのような状況なのかは詳しくは分からなかったらしい。
本来なら充分に調査してから潜入したいところだったが、囚われた人が人だ。何よりも迅速な救出が望まれる。なのに――。
(邪魔してたら世話ないよねー)
こっそりと、はため息を付いた。
これでも責任を感じているのだ。間違えられたのは不可抗力とはいえ、邪魔になったのは事実。しかも、今ここにいるだけでお荷物になっているのが現実だ。
何かしたいと思う余地も無い。これ以上自体を悪化させないよう振舞うのが精一杯だ。
入り口には小さな操作端末がある。開錠には、情報操作のエキスパートが必要らしいのに、それができる人の変わりに自分が来てしまった。本当の特務官を基地に置き去りにしてしまったのだ。
引き返してして連れてくる時間も無い。
今の自分にできることといったら、これ以上邪魔にならないように隅っこでおとなしくしていることぐらいだった。
ぽつんと三角座りを決め込む。
しみじみ自分の運の悪さと言うか、間の悪さを悔いていると、ようやくミゲルがこちらを見た。
「――」
「……何?」
「今からラスティが開錠作業に入る。できるだけ穏便に済ます予定だが、万が一の時は爆破して突破する。ここで逃せば、また移動されて足取りがつかめなくなるから」
厳しい顔で説明するミゲルは、いつもとは別人みたいだった。
全身を覆う防弾スーツと、腰に下げられた銃器が妙に視界に入ってくる。
「退路を確保しているのは別の部隊だ。が、今からお前だけ別に連れて行くわけにはいかない。このまま俺達と行動を共にしてもらうことになる」
言われた内容を悟って、冷や汗が出た。――やはり、着いて行かなければならないか。
自業自得とは言え、震えが全身を襲う。
「いいか、はぐれるなよ」
厳しい顔で言うミゲルに、はごくりと喉を鳴らした。