青春10題

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  それはある晴れた日のこと  

 青春学園1年、には幼馴染がいる。その名を越前リョーマ。今年一番のテニス部期待の星だ。
 にとっては親の付き合いの延長でつながりのできた相手だが、これが意外とうまが合ってそれなりに仲良くやっている。ちょっと生意気で物言いがアレだけど、そこはそれ。長い付き合いゆえの慣れもあって、お互いうまくやってきていたのだ。
 そう、今までは――。

「だからさー無理だって言ってるじゃん」
「何で?」
「なんで、って……」

 あっさり問い返されて、は言葉を失った。だって、相手は3年生だ。ただでさえ1年生の自分には話しかけにくい相手なのに、目的の人物はただの3年生じゃない。テニス部部長にして生徒会役員。品行方正な優等生、全国模試では本当にいたんだ模試一位なんて取れる人、な手塚国光先輩である。難易度で言えば最高何度のAAAクラス。レッドデータまではいかなくても、なんとなく、近寄ることすら恐れ多い人だと思うのだ。一般人にとっては。

「そんなの関係ないじゃん」

 自分にとっては大事でもリョーマにとっては違うみたいだった。何でそんなこと気にすんの? と目が言ってる。
 そりゃアメリカ育ちのリョーマにはたいしたことないだろうけどさ。
 年功序列の日本に育った私にとっては、先輩に話しかけるってすごい勇気がいることなんだよ? ただでさえ、部活でもクラス委員でも接点無い人なんだし。それにその……す、好きな人、なんだからさ。余計無理でしょ。絶対。
 しどろもどろに答えると、それこそ関係ないじゃん、と返された。関係大有りだよ、馬鹿リョーマ!

「別にどうってことないじゃん。あいさつするくらい」

 やっぱり何でもないことのようにリョーマは言う。これだから帰国子女は……とか思った時もあったけれど、これはそういうのだけじゃないな。元々の性格だ、きっと。リョーマは昔からこういうところあったし。

「リョーマみたいにできたら苦労しないんだけどね、私も……」

 ぐったりと、は机の上に置かれたかばんに突っ伏した。その後頭部をリョーマは遠慮なくラケットで小突く。呆れなのか激励なのか。――呆れ、だな。まず間違い無く。
 恨めしげに見上げると、いつもの小ばかにしたような瞳が帽子のつばの下から覗いている。


 相変わらずの幼馴染は、しぐさも言葉も、昔と変わらず小生意気であった。



青春10題「01.ストレートに言えるのならば苦労はしないさ」


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