青春10題

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  それは朝のできごと  

 青春学園1年。テニス部のスーパールーキー越前リョーマ。
 あまり知られていないことだが、彼には幼馴染がいる。その名をと言う。


 親同士が知り合いだったため始まったその関係だったが、終わるのも案外早かった。
 リョーマが渡米したためである。
 幼馴染でいられた期間は短かったけれど、彼らの親が驚くほど、二人は同じ時を過ごした。朝ごはんから一緒で、日が暮れるまで共に遊び、夜は倒れるように眠りに付いた。
 こう言うと、二人が大変仲が良かったように見えるけれど、実際はそうでは無い。……いや、この言い方だと語弊があるか。
 悪いわけでは決して無いのだ。だが、しかし……。
 何と言うか、単純に仲の良い幼馴染だったわけではないのだ。それは男女の違いがそうさせたのかも知れないし、それ以外の何か別の要素があったと言えなくも無い。
 ともかく、リョーマは長い外国生活を経て日本に戻ってきた。二人は同じ学校に通い、昔のように同じ時を共有するようになり。
 そうして、リョーマは理解した。幼馴染が昔とまっっっっったく変わっていなかったことを。



 それは珍しく時間通りに目が覚め、あくびをかみ殺しつつ登校した日の朝の出来事だった。

「………………、何してんの」
「リョーマ?」

 下駄箱に向かう途中、植え込みの影でがさごそ動く影を見つけた。不審に思って近づくと、ものすごく見慣れた顔が振り返る。……認めたくない。非常に認めたくは無かったが、見間違えるはずもない。
 ――幼馴染兼クラスメートのがそこにいた。
 雨でも降るのかな、なんてつぶやき答えない相手にリョーマは半眼になりつつ問い直した。想像の雨を受け止めようとした手を振って、は「別にたいしたことじゃないよ」なんて言って笑っている。けれど頭に花が咲いたとしか思えない幼馴染の姿は、見る人にとっては大したことなんじゃないだろうかとリョーマは思った。幼馴染補正がある自分ですら、ちょいキツイ、などと思ってしまったのだから。


 七光りする変な塗料で地面に描かれた奇怪な模様。
 その周りをランプを持ってくねくね踊り回る女子中学生と言うのは、視覚的に強烈なインパクトがある。


「おまじない。意中の相手にかけたら接近遭遇率がアップするんだって!」

 非常にすがすがしい笑顔で彼女は言うが、おまじないなんて可愛いもんじゃないと思う。
 帽子の下で冷静に切り捨ててはみたものの、額に汗すら浮かべて楽しげに笑う相手には何の効果も無いようだった。

「わたしがんばるー」

 がんばりどころが違う。
 代わり映えの無い幼馴染の奇行に、リョーマは懐かしいようなうんざりなような、複雑なため息をついた。

「馬鹿?」
「えー私真剣なのに……」
「そんな変な踊りする元気あるなら、自分から話しかければいいじゃん」
「…………確かに。がんばるってみるかー」
「え?」

 不意打ちの言葉にぎょっとして振り返ると、相変わらずは奇妙な踊りを続けている。

(……空耳?)

 何やら胸に浮かんだもやもやしたものに憮然としつつもリョーマはそう思うことにして。
 とりあえず奇怪な踊りを続ける相手を止めるべく、目前で揺れる後頭部めがけてラケットを振り下ろした。



青春10題「02.振り向けダーリンとテレパシー」


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