アスタリスク

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 冷たい予感に、の体が一瞬で固まった。――いやさ、だってさ! 考えてもみたらさ!!

 他に捕まっていた人達はこれ幸いとばかりに質問されることに答え、自分の出身国に帰っていった。なのにどうしてキラだけは黙秘を続けるのだろう?
 話せば、帰れるのに。
 体の傷から嫌な思いをしたのは確かみたいだから、軍もそれについては追求していない。ただ「地球軍で何をさせられていたのか」それさえ話してくれれば開放する。なのに、なぜ?
 話さなければ当然、開放は遅くなる。ザフト軍の基地に拘留されることになるだろう。担当がミゲルじゃ無かったら、尋問だってされたかもしれない。そうまでして『ここ』に居座る理由は一体なに?

 そもそも、コーディネイター=ザフト側って図式は正しいのだろうか――?

 人には色々事情がある。しがらみもある。裏切りだってあるだろう。ナチュラルとコーディネイターの差なんて言っても、絶対は無い。人の心は育った環境で、立場で、歩んできた人生で、いくらでも変わることがありえる。
 もし、キラがそれだとしたら?

 こくり、と。の喉が鳴った。

 この部屋のロックの鍵は、右のポケットの中に入っている。基地内をそれなりに自由に行き来できるIDカードも一緒に。
 食事のために持って来た切り分け用のナイフもある。あんなものでも、扱いう人間によっては確かな武器になる。何より――それ専門に訓練されたコーディネイターならば、眠りこけている小娘一人、素手でも造作無く黙らせることが出来るだろう。こっそりミゲル達の模擬訓練を見たから分かる。訓練されたコーディネイターって、世界びっくり人間並みに常識が通用しない。

 暴れそうになる心臓を必死で押さえる。考える。

 いやいやまさか。だって捕まってたんだよ?
 ――でもそういう風に装っただけかもしれない。潜入するために。

 基地から逃げる途中だって、抵抗とかしなかったし。
 ――様子を伺っていたのかもしれない。同じコーディネイターなら女でも油断ならないと思って。

 ラクス嬢を人質にしたら?
 ――あの時はラスティも一緒だった。

 体の傷は? あんなに虐待されてたっぽい痕があったのに。
 ――訓練の最中にできた傷だとしたら? スパイの訓練がどういうものかなんて知らないけれど、普通でないことをするってことぐらい予想できる。

 でも、ならなぜ、今まで動かなかった?
 ――様子をうかがっていたから。私は餌で、キラが尻尾を出すのを、周りの人達が監視していると思って?

 でも! でも――!!

 ぐるぐる。ぐるぐる。
 焦りの為か変な汗がたくさん出た。息が苦しい。心臓が飛び出しそうだ。
 起きればいいのかな? 「ふぁあああ、よく寝た!」とか言って飛び起きたら、用心して止めてくれる? ……いや、逆に刺激して手を早めるだけかもしれない。

 ――つーか、どうして決めてかかっているんだ私は!?

 時間にしては一瞬だっただろう。
 けれどには気の遠くなるほど長く感じた。
 ふわりと空気の動く気配がして、ぎゅっと身をすくめる。覚悟? 決める間なんて無い。避けるようにとっさに飛び起きようとして、予想もつかない感触にまた凍りつく。

(…………え?)

 降りてきたのは、冷たい刃でも、殺意の伝わる指先でもなく。
 ざらざらと洗いざらした一枚の――毛布、で。

「――……っ……」

 キラが何かつぶやいたようだった。でも動揺しすぎていたの耳はその言葉をうまく拾うことができなかった。すぐに傍を離れる足音が聞こえる。


 無造作にかかった毛布は、やっぱり少しざらっとしていた。無いよりマシかな? ってレベルだ。これは明日にでも、おやっさんに横流しを頼んで、もっとぬくい毛布を入れてもらわなければ。海辺の夜は案外冷える。

(……ごめん……)

 しくしくと胸が痛む。
 さっきとは違う理由で、は痛む心臓に手を当てた。
 償いにもならないけれど、せめて少しでも彼が快適に過ごせるように――。

 薄っぺらい毛布にくるまって、  はほんの少しの間、目を閉じた。

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