アスタリスク
-9-
今はお昼時のため、食堂には多くの兵士が詰めている。
その中で、あの特徴的な金髪頭とオレンジ頭を探すのは今はもう癖になってしまっていた。ぐるりと一覧して、やっぱりいないか、とため息を一つ。
気を取り直して、テーブルに向かった。
うっかりだいぶこの基地になじんでしまったけれど、諦めたわけではないのだ。いつまでも戦場近くにいたら、命がいくつあってもたりやしない。本物のの行方も気になる。
そのためにはほんの少しの情報でも欲しくて、情報源には可能な限り注意を払うようにしていた。
「テレビ、オン」
オンオフ言うだけでついたり消えたりする近未来型テレビも今では大切な情報源のひとつだ。
ニュースキャスターのレポート内容をおやっさんと議論しながら(決して野次馬根性ではない)見るのもの大切な日課である。
今日も今日とて、テレビのどまん前の席を陣取り、テレビ画面を見ていた。
『次のニュースです。先日プラントを出発した追託慰霊団を乗せたシルバーウィング号ですが、昨日未明、その消息が途絶えました』
ざわっと食堂内に動揺が広がる。
食堂の雰囲気が一瞬で変わった。いつもマイペースのおやっさんすら顔色を変えて画面を見入っている。
なんだろう?は首をひねった。
『シルバーウィングには追託慰霊団代表であり、現プラント最高評議会議長のご息女でもあるラクス・クライン嬢も乗っており――』
(え……?)
聞き覚えのある名前に、は一瞬耳を疑った。
一人一人と食堂の人間がテレビ画面に集まってくる。
あわただしかった食堂が、衝撃的な内容を告げるテレビを中心に、波が広がるように静まり返っていく。
『あの悲劇の日。血のヴァレンタインによって崩壊したユニウスセブンに向かう途中、何らかの事故により行方が分からなくなった模様で』
「そんな」とか「ラクス嬢が」とか誰かがつぶやく声が聞こえる。
『すでに捜索隊が組まれ、最後に通信が途絶えた地に向かっていますが、いまだ詳しい状況は分かっていません』
こくり、と息を呑む音が聞こえた。
広い食堂で、大勢の人達が、ただ呆然とニュースに見入っている。まるで時間が凍りついたようだった。
『ラクス嬢を初め乗組員の安否が気遣われます』
静まり返った静寂の中、優しく響く、彼女の歌声が聞こえた気がした。