アスタリスク

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 とりあえず、だ。

 手にしたメモを片手に、は一つの部屋の前にいた。電子ロックの施された鈍い金属の扉。手元にはIDカード。このカードで鍵は外せる。それは問題無い。問題なのは、中にいる人物のことだった。

「……入りづらい……」

 扉の前でノックの形に手を丸めたまま、結構な時間は葛藤していた。原因は全部ミゲルのせいだ!
は深〜くため息をついた。

 ミゲルから渡された資料は、たいした情報は載っていなかった。

 仮名:キラ
 性別:男
 年齢:不詳(推定15〜18歳)

 身長、体重、などなど。

 出身国やら家族構成やらは空白だった。おそらく聞き出せなかったのだろう。その反面、備考欄にはぎっちり彼の身体状況について書かれていた。――軽い栄養失調。両手足および頸部の擦過傷。胸部腹部に直りかけの打撲が多数。精神不安定。心身症を併発している可能性あり、などなど。

 うっかり読んでしまって頭を抱えた。――ち、違うんだ! 人のプライベートを暴き立てる趣味なんて無いよ! ただミゲルが書いたであろう指示書&引継書みたいなのを読んでたら、その下にこのプロフィールが隠れててさ。なんだろうって見たら目を疑うようなことばかり書いてあるから……。

 途中まで読んではっと我に返り、は資料をファイルに戻した。
 ……やってしまった――。触れてはいけない所に土足で踏み込んでしまったような、そんな罪悪感を感じて心が痛い。
 尻尾を巻いて退散したいところだったけれど、そうもいかなくてのこのこやって来てしまった。だって見てしまったんだ。彼は――キラは、食事すら拒絶している。



 軽いノックを数回。――返事無し。なんと言おうか、予想通り。

「あー、です。入るよ?」

 もう一度念を押してから、ドアを開ける。そこには案の定、ほとんど手を付けられていないまま置き去りにされた料理と。

「…………」

 無関心を装いながら、警戒心ばりばりで気を張り詰める少年の姿があった。



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