アスタリスク

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  20  


 夢を見た。


『――――すまないが、そこの君』

 カレッジの帰り道だった。
 コロニーの照明が徐々に落とされ、地球で言うところの夕暮れ時に差し掛かる、そんな時だ。 調節されたオレンジの光が曖昧に道を照らす中で、誰かが――名前を呼んだ。

『――君が、*ラ・***君……だね?』
『? ……いえ、僕はキラ・――』


 あの時に振り返らずにいたらのなら。
 僕は、何かが、変わっていたのだろうか――?




「ふんふんふーん。ふふ〜ん」

 その日、は上機嫌に廊下を歩いていた。
 手にしているのは食事の載ったトレイである。右に一つ左に一つ。
 一つは言わずと知れたキラの分。そしてもう一つは……お察しの通りの分の昼食である。

 おやっさんに相談した時思いついた考えというのが――何のことは無い。「自分もキラと一緒に食事を取る」という物であった。ベタな考えで本当申し訳ない。
 しかしこれ以外にうまい方法が思いつかなかったのだ。外に連れ出すのは無理そうだし、他の誰かを連れ込む事もできなかった。
 どうやらキラは極度の人見知りをするようなのだ。一度様子を見に来たミゲルと鉢合わせたことがあるのだが、キラはミゲルの姿を見ただけでうっすら鳥肌を立てた。よく見ると手が小刻みに震えている。そんな状態に本人すら気付いていない様子で――。
 それが余計に、なんだか見ていて痛々しかった。

 他人が駄目なら、自分だって無理では無いのか?

 当然考えたことだ。けれど、ダメもとで試してみると意外な結果に終わった。――に関しては、触れなければ大丈夫だったのだ。
 何故かは分からない。その境界線がどこにあるのかは分からなかったが、『ラッキー!』とミワは前向きに考えた。

(一番最初にヘタレっぷりを見せてしまったからなー。恐れるに足らんとか思われたんだろうなぁ。たぶん……)

 多少警戒はされるのだがミゲルほどではなかった。だからこの作戦を続けてみることにした。

 最初はなしのつぶての扱いをされたが……人間とは慣れる動物である。  妙にフレンドリーな監視に気味悪がりながらも、キラは少しだけに慣れていった。そして――。

 彼の警戒が決定的に薄らいだのは、がうっかり居眠りをしてしまった時のことだった。


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