愛の告白は夕日をバックに二人きりの放課後の教室を希望します
「でさ、そろそろいいと思わない、リョーマ」
「……何が?」
放課後の図書室で蔵書整理中、後ろでだらけていた幼馴染が口を開いた。
突拍子が無いことはいつものことだけど、相変わらずの意味不明さだ。いい加減呆れが顔に出てしまうのも無理はないと思う。
何のこと、と目をやると、机に突っ伏した体をがばっと上げて。
「計画的出会いは失敗したけれど、怪我したおかげで仲良くなるきっかけもつかめたし」
妙に座った目で言い募る。
その怪我もだいぶ良くなってきた。激しい運動はまだ無理だけど、軽く走るくらいはできるようになったし。
「登下校中に合ったら声をかけてもらえるくらいには親しくなったし」
「話しかけるのってからじゃなかった?」
「今日は先輩が先にかけてくれたし!」
余計な茶々を入れるなリョーマ! とねめつけられる。
確かに今日は先輩達の方から声をかけ来たけどさ。それも俺のついでにって感じだったじゃん。
「最近はお昼もご一緒させてもらっちゃってるし」
それも俺のついで。しかも誘いをかけて来たのは菊丸先輩で、部長とは一言もしゃべって無い。まあ今日は隣の席に座って、みっともないぐらい顔緩めてたみたいだけど。
「最近、何かちょっといい感じだと思わない、私?」
握りこぶしで上機嫌には俺を見上げてくる。けど、目線がいまひとつあってない。――あの旅館での一件以来ずっとそうだ。
二人きりになりそうになるとそそくさとどっかに逃げていくし、話していても落ち着きが無い。視線はあちこち飛ぶし、受け答えも全然だめ。動揺してるのバレバレ。本当――。
「まだまだだね」
「リョーマさぁ、いつもそれだよね……」
ぐったりため息を吐きながらは肩を落とした。――そんなにまだまだ?ちょっと涙目だ。
「まあ、前よりは進歩したんじゃない?」
亀並みの速度だけど。そう言うと、緩みかけた頬をぎっと引き締め、何だとこの野郎、とにらんでくる。久しぶりに見た挑戦的な顔が嬉しくて見返すと、一瞬で顔をそらされた。……ちぇ。
「だから私、一発勝負をかけて来ようと思うの」
「は?」
脈絡のなさに声が大きくなった。とがめるように睨みつける図書委員長の目がうるさい。
「なんとも都合の良いことに、今日は委員会の集まりがあるからテニス部の練習まで後30分ある。手塚先輩を見守る会情
報によると、今、先輩は今書類整理のため、一人で教室にいるらしいし」
「何、その見守る会って」
「バックには目の覚めるような美しい夕暮れよ。これ以上のシチュエーションは無いわ!」
聞いてない。
ガッツポーズで幼馴染は立ち上がった。
「――てなわけで、ちょっと告白行ってきます」
「ちょ」
伸ばした手がむなしく空をつかんだ。そんな俺のことを無視しては破顔一笑。
「ありがとうリョーマ。私、女になってくるね!」
図書館では静かに! と叫ぶ委員長に「すいませーん」と返しては走り去った。言葉通り、部長のところに行くんだろう。ぱたぱたと廊下を走る音が聞こえなくなった。しばらくして、俺はようやく我に返った。
――女になるってどういうつもり?
青春10題「09 愛の告白は夕日をバックに二人きりの放課後の教室を希望します」