宿題チャレンジャー
乾いた夏の空に、担任の怒号が響き渡った。
「誰だー! 夏休みの宿題に『おいしい筑前煮の作り方』なんて書いてきたのは!?」
「私です、先生」
「またお前か、!」
教壇を叩く担任の手は、可哀想なくらい怒りに震えている。それを全く気にした様子も無く、呼ばれた少女は飄々と歩み寄る。
真剣な表情で。
「ちゃんと理由があるんです。先生」
「何?」
「カレーは去年提出致しましたので、もうご存知かと思いました。だったら、次は筑前煮かな、と」
なぜカレーに次が筑前煮なのか、さっぱりわからない。その支離滅裂な発想に、幸村の喉の奥がくっと鳴った。
「……そういう問題じゃない」
がっくりと肩を落とす担任の姿がいっそ哀れだ。若く、体格も良い担任は少し生真面目でありながらも気さくな性格で生徒達からの人気も上場だ。教室のあちこちから、哀れむような――愉しむような視線が投げかけられるのも無理も無いことだろう。
これも愛だ。
「……肉じゃがの方が良かったでしょうか?」
「宿題は読書感想文だー!!!!」
こくりと首を傾げる少女に、我慢も限界と、力いっぱい担任は絶叫した。同時に、あちらこちらからの笑い声が。
そういえば去年も、彼女はこうして担任に怒鳴られていたな、と一年前と全く変わらない光景に幸村は目を細める。
「変わらないな、彼女は」
「むしろ変わりすぎだ。全くなんでこんなことになってしまったのか」
苦々しく眉を寄せながら、いたたまれないモノでも見るように真田は顔を伏せた。
そんな真田の苦悩もまた面白くて、幸村は笑ってしまう。クラスメート達の反応も似たようなものだ。休み明けの空気をまとった教室は、どこかけだるげで、明るい。
「出すぎたことをしてすみません。ですが、先生。三十過ぎても独身の貴方には、とっても役立つレシピ集だと思ったのですが……?」
「――余計なお世話だー!」
耐えかねたように幸村がゴホッと噴出した。その横で、真田がとうとう深々とため息を吐く。
――長期休み明けの課題提出。
この時期を、こっそり楽しみにしている輩は、意外と多い。
学校20題「14.宿題チャレンジャー」