偶然の出会いは計画的に
いや、私だって考えたんだよ。「遅刻直前、食パンくわえて交差点でドン☆」作戦ぐらい。でもさ、それって計画的出会いと言うより、単なるお約束ってやつだと思うんだよね。……ていうか、『遅刻直前』ってあたりでもう計画倒れだと思わない? だって考えてもみてよ、リョーマ。あんたならともかく、あの手塚先輩が遅刻ギリギリの時間に登校なんてすると思う? 無理でしょ、どう考えても。
だからさ、ここはひとつ、堅実的に行こうと思ったわけですよ――。
満員電車の中、横目で手塚先輩を追いながら、わたしはにんまりハンカチを取り出した。
今日のキーアイテムはこれだ。かわいらしいピンクの花柄のハンカチ。先輩の目の前でコレを落して、拾ってもらう。名づけて「初めての出会いは花柄のハンカチーフ」大作戦!
先輩の性格からして、落とし物をそのままスルーすることは無いであろう、相手の反応を把握した上でのすばらしい作戦なのだ。だてに長い間ストーキングしてないってこと。入学してまだ3ヶ月しか経ってないけど!
拾ってもらった後、雰囲気しだいでは「お礼にお茶でも……」とお誘いし、もし断られても後日お礼の品を手にたずねていける口実もできると言う、隙無し・死角無しの完璧な作戦。
ハンカチにはしっかりアイロンもかけて清楚なお嬢さんも演出してみた。あとはコレを手塚先輩が良く見える位置でさりげなく落とすだけだったはずなのに……。
なんでこんなことになっているんでしょうかー!?
左手に持った生徒手帳を握り締め、私は必死に人ごみを掻き分けた。
「あ、あの、先ぱ……!」
伸ばした手は帰宅途中のサラリーマンのおやじにさえぎられた。
帰途を急ぐ企業戦士の皆さんは必死になってる可憐でかわいい女子高生(私のことだ!)の姿なんてさっぱり見えてないらしい。もみくちゃにされているうちに追い求める人はいつの間にか改札口を出てしまっている。
(ちょ、ちょっと!)
電車が出てようやく人通りが良くなった駅のホームを全力でダッシュする。改札を出て左右を見渡すと、手塚先輩は歩道橋を上るところだった。
「あの、手塚先輩!」
道路を走る車の排気ガスのおかげで私の声は届かない。小さく舌打ちして再びダッシュする。何かもうこうなってくると意地みたいなものだ。絶対つかまえて渡してみせる!
「手塚先輩!」
歩道橋の上から呼びかける。その声で、下にいた先輩がようやく私に気づいた。いつもと変わらない冷静な顔に、わずかに怪訝そうな色を乗せ私を見上げている。それにほっとして笑い、私は階段に足をかけた。
一瞬の油断。
その油断が命取りだった。
(お、落ちる――!?)
走馬灯のように流れる周りの景色の中、妙に鮮明に目に飛び込んできたのは、驚きに目を見張った先輩の顔だった。
青春10題「05.偶然の出会いは計画的に」